境、心に随って変ず。心垢(けが)るれば境濁る。
心は境を逐(お)って移る。境閑(しづか)なるときは心朗かなり。
心境冥会して道徳玄(はるか)に存す。

―性霊集―


  表面的に理解すると、環境は人意の如何によって変わっていく。人心が荒廃すると、環境も破壊される。人の心は環境によって推移する。自然環境の良い処では心も清らかで明らかになる。内に解釈したら、心の持ちようで身の回りの状況は変化する。心が荒んでいると周りもそれに応じて見えてくる。また心は、周りの対象によって左右され定まる所が異なる。私たちの身の置き処と心はお互いに密接に関連しており、この二つは常に同時に作用し合いどちらか一方が表になるのではない。良い環境において心清らかであれば真理の深源を窺い知ることができる。

「性霊集」は弘法大師空海の詩や文を弟子の真済(しんぜい)が編集したものである。全十巻からなり、詳しくは「遍照発揮性霊集」(へんじょうほっきしょうりょうしゅう)という。内容は、儀式に関するものや交友関係、思想等多岐にわたり、大師の歩まれた生の声を聞くことができる。掲載は巻第二。